【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信 2017.1.13】
むらたんの出演交渉は続いている。
多くの主宰者、プロデューサーは、この出演交渉には苦労している。
1そんなに多くの役者さんたちを知らない
2出演料の相場が判らない
3お客様をどれくらい連れてきてくれるのかが判らない
等の理由による。
一見、これらの理由は、甘いなーと思うかもしれないが、そういうものでもない。
そして、どれも、当事者にとっては切実な事である。
この業界で仕事をしている人は、基本的に舞台が好きである。自分の創る舞台が最高!と思っていて大いに結構なのだが、他にも優れた舞台があれば刺激されるし、楽しむし、負けまいと思うわけで、活躍している人は皆、他人の舞台へも熱心に足を運ぶ。
が、舞台のチケット代は高いから、限界もある。お仲間の芝居も観たいし、未知なる芝居も観たいしと思っていても限られるのは致し方ない事。
そして、なるべく気持ちよく出演して頂くためにも、出演料のお支払いをしたいわけだが、劇団の懐事情を考えつつ、お相手の状況、お気持ちも考慮に入れ…にしても、相場がわかっていれば交渉はスムーズになるがその相場はあってないようなもの。また、そこに、動員が大きく絡んでくる。正直、ここが一番の悩みどころ。舞台公演はほぼチケット代収入で公演が成立する。お客様一人一人のチケット代がその公演を成立させる。お客様が何人入るのか、これは死活問題に繋がるので、簡単な話しじゃない。
俗に言う「手売り」か否かの差はあるにせよ、規模が小さかろうが大きかろうが、実はそのことはあまり変わらない。
わかりやすいのでキャパ数の少ない公演で考えよう。
公演全体で1000席用意できる公演で、10人の出演者だとして、100枚手売りする人が10人いれば、1000席は満席になるが、20枚しか手売りしない人が10人だとすると200席しか埋まらない。そして、それは明らかに予想していた収入に満たないということ、単純に言うとそういうことである。
が、これも、単純に出演者個人の手売りということだけで考えた場合の事であり、それで公演は成立しているわけじゃない。そのことも重要な事なんだけど、そうでもないことも重要である。
そうでない重要なこととは。
「観客は作品を観に来る」のであるということ。これは、当たり前で絶対にそうなのに、見失ないがちなこと。作品じゃなく役者を観に来るものだと勘違いすると、少なくとも継続は難しい。
だから劇団は強い。劇団は、役者さん個々のお客様ではなく、劇団のお客様になるので強いのだ。私はこれを「劇団力」という。なので、継続している劇団は、徐々に観客数を伸ばし、客演さんで新たなお客様を開拓していき、飛躍する。ある意味、これが健全。だから劇団力に応じて、そのバランスが取れる客演さんを呼ぶのが好ましい。
劇団(母体)に力がなければ、お客様を持っている出演者を揃えてもダメなのだ。また、組み合わせも、とても重要。あの人が、あの劇団に出るから観たい、あの演出家とあの役者の芝居が観たい、組み合わせ次第で作品のクオリティも変われば観客数も変わる。
プロデューサーの仕事の中でも大きな肝となるのが、この出演交渉である。
そんなこんなの出演交渉は困難ではあるが、その何倍もワクワクすることでもある。
さて、LiveUpCapsulesの主宰であり、プロデューサーでもあるむらたんは、作品を練りつつ、出演交渉にも動く。
前回公演『線と油絵具』のキャスティングは簡単なものではなかった。
主役は実在した、耳の聞こえない画家松本竣介。この松本竣介に説得力がなければ作品の成功はあり得ない。が、この話しに決めた時点では、松本竣介役の候補はいなかったのである。さあ、どうする⁈、本番までに半年を切った頃、宮原将護に出会ったのだった。
今回の『スパイに口紅』には、LiveUpCapsulesレギュラーメンバーに、『線と油絵具』に引き続き出演するメンバーと、初めて出演する人たちがいる。初参加の中には、出演依頼され、『線と油絵具』を観ていて、またDVDで観て、出演を即決した人もいる。
作家の描き出す世界に共感する出演者に出会えることが、公演の成功に繋がる。
舞台作品を生み出すときに重要なのは、それぞれが敬愛できるかどうか、ここにかかっている。
先に書いた物理的な問題があるのも事実だが、「あいつ、凄ぇな」とか「あの人、イイなあ」とか「楽しい!」とかそんな稽古が続くことが一番大事で、その空気感は不思議なものでお客様にも必ず届く。
予定(希望)より遅れてはいるが、秋ごろ出演者の面々が揃う。作品の構想も着々と進む。
これから外堀を埋める作業も急ピッチで進む。