J-Stage Navi 制作通信 11

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.21】

初日の幕があく。

制作業務のとても大事なお仕事の一つに「受付」がある。
出演者、スタッフ一人一人が「いらっしゃいませ。楽しんでくださいね」とお客様にお声をかけたい気持ちを代表して、制作者が出迎える。
まだ見ぬ「夢の世界」への入口である。

お小遣いで買った公演のチケットをカバンに入れ、公演の日が待ち遠しかったあの頃の気持ちを忘れずに。

が、夢の入口の舞台裏の受付業務は簡単なことじゃない。
チケットの準備の仕方は受付の肝である。技術も経験もいる。
キャパ数の少ない劇場が楽というわけでは決してない。
今回の『スパイに口紅』の受付はJ-StageNaviの百戦錬磨の早川あゆちゃん。
安心してお任せである。

受付、いや、制作のコツは。「繊細に、大胆に」だ。
「細かく、丁寧に」ではない。
ま、これはまた別の機会に書くと思う。

何度も舞台を経験している役者も、スタッフも胸の高鳴りと緊張の中、開演。
15ステージの開幕である。

当日券あります

初日観劇。
観劇後。「物語は世界を変える」に投稿。

『スパイに口紅』村田裕子
国家とは何であろうか。国家など存在しなかった時代には敵などいなかった。人は人を守ろうとするのに、人がつくったはずの国家は、時に牙を剥く。何なのだ。守ろうとした男たち。あの時代は確かに国を守ろうと生命をかけていた男たちがいた。J-StageNavi島田敦子』

本番を見届けた時、作品の感想をアップする。
書き始めるその瞬間に、それまでは考えてもいなかったことが思い浮かぶことがある。
「国家」とは、何だ。
こんなところまで考えが及んだ。
村田裕子への期待、更に高まる。

アンケートも知り合いのお客様からも大変好評!
胸にグッと来るは、男たちは何だかカッコいいわで、終演後のロビーは熱気に包まれる。

とにかく、お客さんがいっぱいきて下さいますように!!

J-Stage Navi 制作通信 10

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.20】

「能力や才能は それを認め活用してくれる能力や才能がなければ 成り立たない。」
画家:池田満寿夫の言葉であり、制作の仕事とは、常々この事だと思っている。
(チラシより)

私の制作の仕事の基盤は、劇団ショーマにある。旗揚げからの13年間、小劇場ブームと言われた頃を劇団と突っ走った。
『ある日僕らは夢の中で出会う』は、劇団初期の代表作の一つであり、作家・高橋いさをの傑作であるが、
第6回公演にして大注目された作品でもある。
第6回公演であるから、創立わずか3年たらず、劇場は150人も入れば満席となる旧シアターグリーン、
出演者は4人、この作品を評論家の大笹吉雄さんが観に来てくださった。そして、大笹吉雄さんが朝日新聞に発表される
今年のベスト5にこの『ある日僕らは夢の中で出会う』を選出してくださったのである。

サイコーに嬉しかったのは勿論だが、まだまだ無名の劇団の作品を選出してくださったその公正さに感服した。
自分もこうありたいと思った。

今回の公演は、J-Stage Navi「物語が世界を変える」連動支援企画と銘打った。
資金があるわけでもないし、うちが支援したところでお客様が爆発的に増えるわけではない。
けれども、まだ世に出ていない才能を認め、活用することで、演劇界の財産を作っているのだという自負はある。

通しが繰り返される毎日。

「本当のことをやる 本当のことをやる 本当のことをやる」が、繰り返される稽古場。
ヒリヒリする。

過酷な時代には壮大なるロマンがある。
こんな男たちが、生きていたのか。
生きる為、いや、生き抜く為に選んだ道。

生き残るのは、誰だ。

フィクションでありがながら、この現代に繋がる男たちの選択、
刮目せよ。

写真:背中で語る宮原将護。宮原将護の背中

本日、
LiveUpCapsules『スパイに口紅』初日。

J-Stage Navi 制作通信 9

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.18】

顔合わせ、初日のこと。

はじめましてや、今回もよろしくのご挨拶。
制作的なお知らせ。
作家、演出家であるむらたんからの作品のお話しあれこれ。

出来上がっているシーンの読み合わせ。

私はこの読み合わせの時、脚本をみないことが多い。
字を追わないということ。
短いシーンを役をシャッフルして読み合わせ。
と、「あれ、さっきと、本変わった?」とあり得ない錯覚をおこしていることに気づく。

この日に書いたtwitter
「字を追う。想像が及ばない。が、俳優の声がのっかると、そこには情景が見えてくる。
村田裕子の書くセリフはリズムがあるから、読み手の俳優が変わるとその俳優の
リズムになり情景の色が変わる。どんなキャスティングになるのか楽しみ膨らむ初顔合わせ。」

戯曲は小説と違って読むのが難しい。
それはある意味戯曲の完成は、舞台にのっかった時であるからだ。
良い舞台の戯曲を読むと、あまりに台詞として書かれていないことに驚くのではないかと思う。
「説明台詞」という、揶揄する言葉があるように、台詞で説明している作品はつまらない。
むらたんの書く本は、本当に一言一言にいっぱいの意味が含まれている。
時には、台詞なんてないこともある。

今回の『スパイに口紅』で、私が大好きな台詞は、「○○」だ。
たったの2文字である。
この2文字にどれだけのことがこめられているかは、観ていただけたらわかると思う。
秀逸な台詞。

作品は参加している全員で彩られていく。

J-Stage Navi 制作通信 8

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.17】

関係者の士気が大事。

良いお稽古が出来ること、当たり前だけど、これが一番士気が高まる。

制作側からは、チラシをできるだけ配布したり、宣伝しやすい文面を提案したり、とにかく地道にやっていくしかない。

そんな中、企画書の効果もあり、新聞への掲載が決まる。
1月19日 東京新聞「show!劇場」
1月20日 毎日新聞「ステージ紹介」コーナー

嬉しい。

そして、とってもとっても嬉しいニュースも飛び込む。
昨年の『線と油絵具』が、
佐藤佐吉賞2016に続々とノミネートされた。

結果、最優秀賞も受賞!

佐藤佐吉賞2016
LiveUpCapsules『線と油絵具』
【最優秀主演男優賞】宮原将護
【最優秀舞台美術賞】鎌田朋子
【優秀脚本賞】村田裕子
【優秀照明賞】今西理恵
【優秀衣装賞】LiveUpCapsules

最優秀賞の発表があったのが、『スパイに口紅』本番の4日前のこと。
盛り上がった!!

そして、受賞の皆様の、照れくさそうなイイお顔を、パシャリ。受賞の様子

J-Stage Navi 制作通信 7

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.16】

公演の際とても大事なこと。
人材
タイトル
ビジュアル
キャッチコピー

戯曲(脚本)が優れていることが大事なのは、当たり前。故に、それ以外で大事なことの話し。

人材、大事。
プロデューサーの仕事の中で一番大事なのが、人材を揃えることである。出演者、スタッフ共に。芝居は究極の集団芸術だから、人材にかかっている、それはそれは重要なこと。

タイトル、大事。
制作講座の際、「タイトルは誰が決めるのでしょうか」と尋ねると、皆、キョトンとする。それは、作家以外に誰がいるのだ?、故にそんなこと考えたこともない、の、キョトンだ。タイトルをつけるのは凄く難しく、才能が必要だ。そう、特別な才能と言っても良いものだから、作家がイイタイトルを考えられるとは限らない、そう思ってイイ。
私が座付き制作をしていた劇団ショーマでもタイトルを決めるのに何時間も費やした作品もある。作家、高橋いさをが、スッと決めてくることが多かったが、そうでない時はホントに、4人位のスタッフが頭を付き合わせチラシ制作のタイムリミットギリギリまで、何日も何日も考えた。今考えてみると、話しあったわけではないのに、頭を付き合わせていた4人は、タイトルが重要だという認識を持ち合わせていたのだな。
また、後に知ったことだが、本のタイトルは編集者がつけることも多いらしい。特に新書。新書はタイトルのインパクトで売り上げに相当の差が出る。タイトル勝負と言ってもイイ。
というわけで、タイトルはとても大事。名作と呼ばれるものはタイトルも秀逸である。
さて、今回は『smoke』が当初の仮タイトルだった。煙草の煙モクモクな感じのイメージから。が、同名の映画もあるし、横文字のタイトルはダメと却下。横文字のタイトルは印象が薄く、イメージもしにくいと、私は思っている。タイトルは絶対日本語がイイ。そして、タイトルには“スパイ”を入れ、100本ノックをやろうと、10案位をまず提案する。と、むらたんから『スパイに口紅』と、きた。「お、イイかも」。少し寝かせて、仮チラシなどには(仮)で入れていくうちに、馴染んできた。本チラシ合わせて決定。
『スパイに口紅』
100本ノックしないで済んだ・・・ホッ…。

ビジュアル、大事。
今回はJ-Stage Naviの支援企画という事もあって、チラシデザインは、うちのHPや営業カタログなどのデザインを一手に引き受けてくれている林拓郎くん(拓ちゃん)にお願いする。まずは、企画書と現段階でのむらたんの構想を話し、仮チラシがあがってくる。カッコいい!

役者さんたちからも、大好評! この盛り上がりのまま、本チラシ会議へ。
拓ちゃんからいくつかのイメージビジュアルがあがってきている中、本チラシの方向性は勿論、宣伝方法、作戦にまで話しは及び、丸1日近く会議。作品の主軸がハッキリしているので、三人(むらたん、拓ちゃん、私)のイメージにズレはない。カッコ良く、インパクトがあり、実現可能なビジュアルの絞り込み、表も裏も具体的になっていく。
チラシに掲載する文章は私からの提案で進む。企画書の自画自賛も難しいが、チラシに掲載するキャッチコピー的な宣伝文句はさらに難しい。正直まだ無名ではあるが、魅力や才能に溢れた人材が集まっているので、観なきゃ損!、その思いを込めた文章にした。
数日後、本チラシのデザインがあがってくる。カッコいい!

チラシ表

 

 

 

 

 

 

 

数日後、オリジナルチケットのデザインがあがってくる。カッコいい!

 

 

 

 

 

 

 

企画書もいつものようにスタイリッシュにあがってくる。

企画書表紙

 

 

 

 

 

カッコいいの連発だが、これって凄く大事。舞台は幕があがらないことには“絵”がみえてこない。それは映画(映像)と大きく違う事であり、宣伝の難しさに繋がっている。作品のイメージが宣伝には必須、だから舞台の場合はチラシ等のビジュアルが作品のイメージになる。だから、カッコ悪いより、カッコイイのがイイに決まってる。

外堀が埋まっていく。

追伸:小屋入り2日前、最後のビジュアルものがあがっくる。
もう1回、言うよ。
カッコイイ。
劇場にいらした方へのお楽しみグッズ出来上がり!

J-Stage Navi 制作通信 6

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.14】
出演者がほぼ決まり、あらすじ第三稿を携えやってくるむらたん。

「○○○は、凄くイイ。これは、きっととても展開すると思う。スリリングだし。」
静かなむらたん。
今回は黙っているわけじゃない、冷静沈着なのである。

合格!

この時、むらたんがホッとしたのか、当然よと思ったのかは、私は知らない。ま、むらたんの落ち着き加減は自信でもあるのだろう。
偉そうなこと極まりない私の言葉ではあるが、これも作戦。これまでダメ出しをしてきた私には、ダメなものはやはりダメ、でもイイものには、イイ、これで行けぇ、とGoサインを出す義務があると思っている。この段階(A4、1枚にも満たないが、主軸の決定)で太鼓判を押すなら押す、押せないなら押さない。
むらたんが突き進む道は真っ直ぐに伸びている、迷うな。

さて。静かに聞くむらたんに、今日はある提案があった。
J-Stage Naviの公式Twitter『物語が世界を変える』連動支援企画の提案である。
前回作『線と油絵具』の成功の延長線上にある今回、キャパ数は二倍に近い大冒険である。作品が優れていれば、出演者一人一人の「この作品を観てもらいたい」気持ちも自然と高まるが、それを実感できるのは初日があけてから?!、それでは遅すぎる。
この支援は制作を担当するうちだからできることを、やる。
予算も時間もない。
頭を使わなければ。

この連動支援企画をむらたんは快諾してくれた、目を潤ませながら、ね。

さあ、大事なのは、まずチラシ、その前に仮チラシ。
タイトル大事。
ビジュアル大事。
キャッチコピー大事。
関係者の士気が大事。

様々な作戦会議へと続く。

J-Stage Navi 制作通信 5

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.13】

むらたんの出演交渉は続いている。

多くの主宰者、プロデューサーは、この出演交渉には苦労している
1そんなに多くの役者さんたちを知らない
2出演料の相場が判らない
3お客様をどれくらい連れてきてくれるのかが判らない
等の理由による。
一見、これらの理由は、甘いなーと思うかもしれないが、そういうものでもない。
そして、どれも、当事者にとっては切実な事である。

この業界で仕事をしている人は、基本的に舞台が好きである。自分の創る舞台が最高!と思っていて大いに結構なのだが、他にも優れた舞台があれば刺激されるし、楽しむし、負けまいと思うわけで、活躍している人は皆、他人の舞台へも熱心に足を運ぶ。
が、舞台のチケット代は高いから、限界もある。お仲間の芝居も観たいし、未知なる芝居も観たいしと思っていても限られるのは致し方ない事。
そして、なるべく気持ちよく出演して頂くためにも、出演料のお支払いをしたいわけだが、劇団の懐事情を考えつつ、お相手の状況、お気持ちも考慮に入れ…にしても、相場がわかっていれば交渉はスムーズになるがその相場はあってないようなもの。また、そこに、動員が大きく絡んでくる。正直、ここが一番の悩みどころ。舞台公演はほぼチケット代収入で公演が成立する。お客様一人一人のチケット代がその公演を成立させる。お客様が何人入るのか、これは死活問題に繋がるので、簡単な話しじゃない。
俗に言う「手売り」か否かの差はあるにせよ、規模が小さかろうが大きかろうが、実はそのことはあまり変わらない。
わかりやすいのでキャパ数の少ない公演で考えよう。
公演全体で1000席用意できる公演で、10人の出演者だとして、100枚手売りする人が10人いれば、1000席は満席になるが、20枚しか手売りしない人が10人だとすると200席しか埋まらない。そして、それは明らかに予想していた収入に満たないということ、単純に言うとそういうことである。
が、これも、単純に出演者個人の手売りということだけで考えた場合の事であり、それで公演は成立しているわけじゃない。そのことも重要な事なんだけど、そうでもないことも重要である。
そうでない重要なこととは。
「観客は作品を観に来る」のであるということ。これは、当たり前で絶対にそうなのに、見失ないがちなこと。作品じゃなく役者を観に来るものだと勘違いすると、少なくとも継続は難しい。
だから劇団は強い。劇団は、役者さん個々のお客様ではなく、劇団のお客様になるので強いのだ。私はこれを「劇団力」という。なので、継続している劇団は、徐々に観客数を伸ばし、客演さんで新たなお客様を開拓していき、飛躍する。ある意味、これが健全。だから劇団力に応じて、そのバランスが取れる客演さんを呼ぶのが好ましい。
劇団(母体)に力がなければ、お客様を持っている出演者を揃えてもダメなのだ。また、組み合わせも、とても重要。あの人が、あの劇団に出るから観たい、あの演出家とあの役者の芝居が観たい、組み合わせ次第で作品のクオリティも変われば観客数も変わる。
プロデューサーの仕事の中でも大きな肝となるのが、この出演交渉である。

そんなこんなの出演交渉は困難ではあるが、その何倍もワクワクすることでもある。

さて、LiveUpCapsulesの主宰であり、プロデューサーでもあるむらたんは、作品を練りつつ、出演交渉にも動く。

前回公演『線と油絵具』のキャスティングは簡単なものではなかった。
主役は実在した、耳の聞こえない画家松本竣介。この松本竣介に説得力がなければ作品の成功はあり得ない。が、この話しに決めた時点では、松本竣介役の候補はいなかったのである。さあ、どうする⁈、本番までに半年を切った頃、宮原将護に出会ったのだった。

今回の『スパイに口紅』には、LiveUpCapsulesレギュラーメンバーに、『線と油絵具』に引き続き出演するメンバーと、初めて出演する人たちがいる。初参加の中には、出演依頼され、『線と油絵具』を観ていて、またDVDで観て、出演を即決した人もいる。
作家の描き出す世界に共感する出演者に出会えることが、公演の成功に繋がる。
舞台作品を生み出すときに重要なのは、それぞれが敬愛できるかどうか、ここにかかっている。
先に書いた物理的な問題があるのも事実だが、「あいつ、凄ぇな」とか「あの人、イイなあ」とか「楽しい!」とかそんな稽古が続くことが一番大事で、その空気感は不思議なものでお客様にも必ず届く。

予定(希望)より遅れてはいるが、秋ごろ出演者の面々が揃う。作品の構想も着々と進む。
これから外堀を埋める作業も急ピッチで進む。

J-Stage Navi 制作通信 4

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.10】

むらたんが事務所やってくる。
企画書を書き始めている。
 
企画書は宣伝のために必要なものだが、出演交渉の際やスポンサー探しの際にも必要なもの。そして、最近は主催者や作家の立場である自分たち自身の為にも良いものであると、色々な人に書くことを勧めている。
それは公演を打ち続けていると、自分たちの目的を見失っていることや、集団内での共通認識を持ち得ていないことに気づくことができたりするからだ。また、描こうしている作品を他者に見せる為に大まかなあらすじを書くと作家の頭の中は整理されるからだ。
「企画書は、自画自賛です」、企画書の書き方講座で私ははじめにまずこう言う。これは、もともと自信を持って書くべきということを言いたいわけだが、裏を返すと、企画書が面白くなくて作品が面白いわけがないとも言える。
例えば、2時間あまりの作品のあらすじをA4用紙1枚にまとめる、それが面白くなければ、2時間の作品が面白いわけがない。
 
さて、話しが企画書の意義の説明になってしまったが、むらたんの企画書の話しである。ここ数回の公演で、むらたんは公演が動き出す前に企画書を書き、出演交渉の際にも使っている。そこで、その企画書の中で私が読みたい(知りたい)のは、作品の主軸を何にしたいか、である。作品の題材は充分に興味の沸くものであるが、作品にする時、何を主軸にして書くかで、作品がうまく転がるかどうかが決まる。
あらすじを読ませてもらう。ふーむ。「これだと話しが転がっていかないよ」。黙るむらたん。
そう、今日の打ち合わせのために、むらたんはあらすじの第2稿を書いてきたのだが、私の心は踊らない。
むらたんが、どういう話にしたいのか、そして何故私の心が踊らないかなど話しをする。見えてくるのは、今ちょうどむらたんが悩んでいるということに過ぎない。むらたんが心惹かれたことが、主軸にはなりにくいことがわかってくる。そんな時はサッサとそこから離れ、別の主軸を見つければイイ。考えたことは、無駄ではない。現にこの時考えた主軸は、作品の山場で使われている。
折角考えたことを手離すというのは、勇気のいることだけど、良いモノにするには必要なこと。だけど、この見極めは、簡単なことじゃない。「で?」とか、「それでどうするの?」とか意地悪く聞く私の問いに答えられなければ、そんなもんトットと捨てちまえ、ってことを突きつけているってことになる。次に進んで欲しいと思う愛のムチってことで、むらたんには勘弁してもらおう。
そんな会議をしたのが、出演者も、徐々に決まりつつある夏のこと。ここから、多くのことが加速して進んでいく。

J-Stage Navi 制作通信 3

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信  2017.1.5】

「日本に陸軍中野学校という諜報員(スパイ)を要請する学校が実在したそうです。日本のスパイの話しにします」
むらたんこと村田裕子さんから、次回作の構想を聞いたのが、2016年2月頃のこと。
(宮原)将護さんに悪い男をやってもらいます。
煙草スバスバ、煙もくもくの男臭い芝居にしたいんです。
むらたんの本の題材は舞台監督の吉田さんとの出会いが大きい。吉田さんの歴史に対する造形はとても深く、しかも長年の付き合いからなのだろうむらたんが「ほほぅ」と唸る史実を色々と話してくれる。そこからむらたんの猛勉強が始まるのだ。

第二次世界大戦前、日本は何に向かって突き進んでいこうとしたのか。
欧米諸国への憧れなのか、他国侵略こそが先進国の仲間入りとなると考えたのか、秘密裏に養成された諜報員(スパイ)の存在とは、如何なるものであったのか。

陸軍中野学校でおこなわれていた実地訓練の話しは、とても興味深い。
訓練内容やその方法は、たった70年ばかり前のことなのに、え?スパイのくせに?、の連続。メールや携帯がなかった時代をもう既に忘れてしまっている我々が、ファックスさえもない電話もそれほど普及していない時代を想像するのは、未来を想像するのと変わらなくなっている。

ミステリアス、ドラマティック、エキサイティング、これほど心踊る題材はないと確信したのであった。

むらたんが資料を読み漁り、様々なエピソードを話してくれる。この時点で作家の興味がこちらをワクワクさせてくれるかどうかは、とても重要。 作家の興味がマニアック過ぎたり、捉え方が片寄っていたりすると、良い本にはならない。
この段階で私が気をつけるのは、何かに寄りすぎていないかを見極めること。
そして、話してくれた数々のエピソードから、特に面白い(興味深い)と直感したことを、伝えておくこと。

作家というのはとても孤独な作業だと思う。最近、小説家(文筆業)にとっての編集者の存在が如何に重要かを改めて考えることが多く、私は劇作家にとっての編集者でありたいと思っている。

チラシのキャッチコピーだが、これはこの日に生まれたもの。この日、いつものように飲みに行き、私はその勢いで、チラシのキャッチコピーを考えていたのだった。
むらたんが当初書きたいと思ったことが、数か月後も変わらずにいることは、とても良いこと。
「書きたい」という欲求、それを具体化する時にズレがないのだから。

LiveUpCapsules 『スパイに口紅』
大日本帝国時代。
国に秘密裏に鍛え上げられた諜報員たちがいた。
メールも携帯も、ファックスさえも無い時代、彼らの諜報活動は如何なるものであったのか。
そして命を賭した先に或るは、他国への侵略か、祖国の滅亡か。
生き残るのは、誰だ。

僅かに残された記録から着想を得た、壮大なるスパイ・フィクション、2017.01.20 開幕!

J-Stage Navi 制作通信 2

【LiveUpCapsules『スパイに口紅』関係者の皆様へ J-Stage Navi制作通信】

1:J-Stage Naviから制作ごとのあれこれを現場のクリエイターの皆様へお伝えしたく、制作通信を発行することにいたしました。制作業務はお稽古場の外で進んでいるため、現場の皆様にはわかりにくいものだと思います。今回はJ-Stage Navi『物語が世界を変える』連動支援企画の第一弾でもあります。この企画が立ちあがった経緯のご説明から始め、様々なご報告もしながら、LiveUpCapsules『スパイと口紅』の成功を願って邁進してゆきますので、共に駆けていきましょう!

2:制作協力会社、J-Stage Naviについて。
J-Stage Naviは、Japan Stage Navigationの略で、日本の舞台公演をナビゲーションしたいという思いをこめて命名しました。
私は制作のお仕事は、公演に向けて色々な事をナビゲーションしていくものだと思っています。
弊社は日本でも珍しい舞台制作専門の会社で、お陰様で、毎年40~50本の公演のお手伝いをさせて頂いてます。業務内容はそれぞれですが、常に一人でも多くのお客様に情報を届け、舞台公演の裾野を広げることを念頭に置いています。

3:『物語が世界を変える』企画について。
私は、人はもっと芝居を観るべきだと思いこの仕事に就きました。
物語は人を成長させ、元気にしたり発散させたりする力があります。
生身の人間が目の前で繰り広げる物語(舞台)はいつの時代も、とても重要なのです。
数々の物語を紹介していき、まずは「物語」に興味を持ってもらう必要がある。
そしてその「物語」を紹介した人が実際に作り出す「物語(公演)」は「どんなものなのだろうか」という興味に必ず繋がる。

4:そして起ち上げた『物語が世界を変える』Twitter。

演劇・ダンス等の舞台芸術のクリエイター達による、物語の紹介アカウントです。お陰様で順調に継続させて頂いています。
閲覧数は、1ツイートでコンスタントに2千を超えています。
今年の鵺的『悪魔を汚せ』公演は、大変な盛況で、公演の後半はお客様が入りきれないほどでした。
『物語が世界を変える』Twitterでは出演者の方数名に『悪魔を汚せ』のご紹介をして頂いたところ、閲覧数が1万を超える方もいて、『悪魔を汚せ』全体では4~5万の閲覧がありました。
こちらは大変手ごたえを感じたものとなり、とても有効な宣伝の一つになったのではないかと思っています。
今回、スパイに口紅でも皆様にご協力を頂ければと思っております。

村田裕子さんは、『物語が世界を変える』Twitterに一番多く投稿してくださっています。
特筆すべきは、弊社の他団体公演の感想をはじめ、他の良かった舞台のことも惜しみなく紹介してくださっていることです。物語を心から愛していることがわかります。

5:『線と油絵具』の成功に至るまで。

村田さんの本は登場する人物がどのような人物なのかが、とても重要です。
キャスティングにより、本も変わります。
『線と油絵具』の主役は、実在した耳の聞こえない画家松本竣介。この松本竣介に説得力がなければ作品の成功はあり得ません。
村田さんが描きたい松本竣介像に、ぴったりだった宮原将護さんに私が出会ったのは、そしてご紹介できたのは運命だなと思いました。
人物像ができあがってくることで本全体が躍動しはじめ、本当に人間が生き生きとしている珠玉の作品になりました。素敵な作品でした。

6:『スパイと口紅』に決まるまで
J-Stage Naviと村田裕子さんのお付き合いは、2011年頃からになります。(うちの早川あゆとのお付き合いはさらに前から(なんと2003年です。)ですが)作品創りは大変丁寧で、厳しい現実と賢明な人物を見守るような視点でいつも描いているなと思っていました。

今回ご紹介するのは、少し前に、村田裕子さんに贈った言葉です。(LUCのHPに掲載してくださっています。)

  • LiveUpCapsulesとは、村田とは●

「歴史を紐解き、心の琴線に触れた人物や事件をテーマに描く村田裕子は、誠実なる作家なのだと思う。
成功者として歴史に名を残す人もいれば、烙印をおされた人生を送った人もいる。が、それぞれの人生は、その人なりに正義を貫き、人を想いやり、世の為人の為に生きようと思った結果でしかないのだと、証明したいのではないかと思う。
歴史の結果を批判するのは容易いことかもしれないが、描きたいことは、人間の熱意そのものなのだと、いつも思う。
J-Stage Navi 島田敦子」

『線と油絵具』の成功は、劇場さんからも称賛され、次回は長期間でのお話をいただきました。
LiveUpCapsulesにとっては、冒険です。
でも、村田さんには迷いがありませんでした。
それは、ここ何回かの公演で出会った俳優さんたちに刺激され、また同時代を生きる他の劇作家や演出家の取り組む姿勢や挑戦にも思うところがあったのでしょう。

そこで、村田裕子の成長に期待する私は連動支援企画を考えました。
これまで彼女一人でこなしてきた業務を、制作会社J-Stage Naviが協力することで、より良くなるよう、バックアップをしたいと思っています。まずは、タイトル、そしてさまざまなビジュアルや宣伝文を村田さんと共に考え、具体化してきました。

脚本を書くという事は大変労力のかかることで、少しでも早く完成で来ていることが好ましいのは言うまでもありません。
今、村田さんはとても苦しんで、でも、とても楽しんで脚本を書き進めていることと思います。
初顔合わせの日に小さな声で「いい本書きます」といった言葉がとても印象的でした。

この仕事を続けていると、宣伝の重要性を常に感じます。
仕事柄、観客を増やす術を皆さんから問われます。これまでの経験上の工夫や努力をお伝えしていますが、正解はありません。世界に発信できる媒体は数あれど、うまく使えなければ情報はただ埋もれていってしまうばかりです。
観劇することを日常にするにはハードルは高いですし、公演直前の告知だけで、舞台公演に足を運んでもらうことは大変厳しいと言わざるを得ません。しかし、私たち演劇に携わる者はすべて舞台公演を続け、それを広めていく責任があります。

公演の成功に向かって走るぜ!!